住宅ローンの繰り上げ返済について考える
日経電子版の記事からの考察
日経電子版に以下のような記事があった
「住宅ローンはマイナスの資産。手元にお金があるなら一刻も早く繰り上げ返済した方がいい」。どのマネー誌、ビジネス誌にも書いてあることです。もちろんこれには一理あり、基本的には正しいのですが、相続という視点から見ると答えはちょっと違ってきます。私は「住宅ローンはなるべく繰り上げ返済しない方がいい」と考えています。それが相続人自身が実行できる数少ない納税資金対策だからです。
日経電子版「ぼくらのリアル相続」より
要は、住宅ローンは「団体信用生命保険」に入ってるので万が一、死亡しても家族に負の遺産が残ることはないし、すぐに現金化できない土地を相続したりしたりしたときなど、なにかと現金をもってないと困ることは考えられるので手持ち資金として、繰り上げで支払うよりももってたほうが助かりますよっていう話。
繰り上げ返済はしないほうがいいっていうこと、手元資金はあったほうがいいっていう話には、私も賛成ですが、まあでも、この記事にある例示での理由だけなら無理があるかなと。
記事では例示として
「兄弟で相続した5000万円の土地を売るかどうかで将来もめると困るので、弟に2500万円を渡して話をつけるっていう時に、住宅を現金支払いしてたり、ローンを繰り上げ返済してて手元にお金ないと困りますよ」という話をしています。
まああくまで、例示なんだからというかもですが、例示が正しくなければその例示でそうしないとこういう風に困りますよ?っていうのがおかしくなっちゃいます。
まず、住宅ローンを組まないで現金支払いしていた場合ですが、まあいくらの家を買ったかにもよりますけど、手持ちの全財産が5000万円の人が5000万円で家買いますか??
住宅ローンをなるべく使いたくないって言っても全財産吐き出して家買っちゃう人はいないでしょう。貯金が100万しかない人が宝くじで5000万円当たったならやっちゃう人いるかもですが・・・
その先のことを考えると、全財産が5000万しかなければ、せいぜい1000万円は普通の人なら残しますよね
そうすれば手元には1000万円ある。しかも5000万円も貯めれる人ならある程度以上の収入もあるでしょうし、お金の運用も知ってるでしょうから、一定期間があれば、ある程度でまた貯蓄は増えるでしょう。
5000万円を貯めちゃって一括で家買っちゃう人なら、よほどのタイミングでなければ、2500万円くらいなら払える資金はできそうです。
まあ家を現金一括で買うなんて、ある程度裕福な人か宝くじ当たった人くらい、もしくはお金をうまく運用してる人くらいしかなかなかいないです。
そういう人たちが2500万円の支払いで困るっていうのはちょっと難しい。お金持ってる人なら困らないでしょうし、宝くじ当たった人はお金残って入れば払えるし、なれば迷わず売っちゃうでしょうし、資産を運用して増やした人なら、売るにしろどうするにしろ、その土地でさらなるいい運用を考えるでしょう。
次に、2500万円を貯めて繰り上げ返済しちゃったって人について
これも同じ。2500万円も繰り上げ返済できるってなかなか余裕がないとできないですよ。はい。
3000万円の住宅ローンをぎりぎりで組んでる人が2500万円の繰り上げ返済できるとは、とてもじゃないけど思えないですからね。
2500万円も繰り上げ返済できるってなると、普通に考えて5000万円以上の住宅ローンを組んでる人でしょ。
5000万円の住宅ローンなんて平均的な年収5~600万円程度の年収のサラリーマンじゃあまず無理です。住宅ローンはmaxで年収の7倍、余裕をもって返せるなら5倍程度といわれています。つまり500万円なら最大3500万円まで。普通なら3000万円程度でしょう。
5000万円の住宅ローンを組める人となると、ぎりぎりで組んでも700万以上、普通なら1000万円以上の年収ということになります。
ぎりぎりで組んだ人が2500万以上繰り越し返済できるほど簡単に貯まるとは思えないし、余裕を持って組んだ人ならまあ繰り越し返済してても貯蓄も考えているとみます。
つまり話の前提となっている、住宅ローンの繰り越し返済として2500万できるひとが、5000万円の土地を相続してお金なくて困ってしまうっていうケースがかなりレアなのではということ。
なにより、土地の5000万円。これが住宅を相続して上物は20年以上たってるので資産価値0だからということであれば、上物も入れれば7,8000万円の住宅。
7,8000万円の家買うってなかなか裕福な家ですよ。まあ少なくとも年収は1000万円以上ないと無理です。そんな家に相続する現金が1000万円もないってちょっと考えれれないですよね。
その前提にも無理がある。
土地が家以外の土地であれば、ますます裕福でしょうから、現金がないなんてますますありえません。
現金分も相続があれば、そっちで払っちゃえますって話になるので、無理やり土地だけにしているのですがいろいろと無理があります。
ある程度の金額でないと、「住宅ローン返済して手元にないと困りますよ」ってできないので金額を5000万円にしたのだと思いますが、話の例示となっている前提にかなり無理がありなかなか「おーなるほど」って納得できない話ではあります。
この例示のケースだと、住宅ローンを繰り上げ返済していても、実際にはあんまり変わらなそうです。
5000万円の土地の相続なら、現金含めほかにも遺産ありそうですし、2500万円繰り上げ返済できるひとは、困らないでしょうし、1000万円しか繰り上げ返済できてないなら、繰り上げ返済してなくてもお金は足りないですし。
どのパターンでも「繰り上げ返済さえしてなければよかった」とはあんまりならなそうです。
繰り上げ返済はお得なのか?
一般的には、繰り上げ返済したほうがお得かもしれません。それは金利が低いとはいえ、金額が大きいだけにお金で見ればなかなかな金額になるからです。
仮に2000万であれば住宅ローン金利が2%であれば、年間40万円の利息がかかります。
3000万円なら、年間60万円です。
実際には返済していき元本が減っていきますので、かかってくる利息も年々減っては行きますが10年以上は間違いなく、年間数十万円の利息を払い続けることになります。
それが、お金があれば繰り上げ返済したほうがお得ということの大前提となっているものです。まあ金額が大きいので利息分もったいないですよという話です。
ただ、これにもまあ話のトリックがあります。
たしかに年間数十万円の利息がかかります。でも2000-3000万円のローン組んでる人なら、繰り上げ返済できても一度にできるのは普通ならせいぜいい100万円、200万円でしょう。
200万円返済した場合、2%の住宅ローンなら年間で減らせる利息は4万円。
かりに1%で組んでるなら、たったの2万円。
あれ?さっきとは一気に金額がトーンダウン。月でいえばわずか3300円程度。(1%で組んでるなら1650円)
確かに、減らせるに越したことはないですが、インパクトには欠ける金額であることは否めません。
ただし、5年間200万円ずつ繰り上げ返済できるなら、1年目は4万円でも2年目には8万円、3年目には12万円、4年目には16万円、5年目には年間20万円になりかなりお得感は出てきます。
ただ、毎年200万円を5年っていうことは1000万円ですから、2000-3000万円の住宅ローンを組んでる人にとって、普通はなかなかそこまでの金額を繰り上げ返済は無理でしょう。
実際には繰り上げ返済できる金額は、もっと少ないでしょうからお得感はもっと減ります。
お得感は、少なくなりますが、少しでも金利分の無駄払いをしているなら払ったほうがお得というのは間違いありません。
ただし、それはあくまで「お金を銀行に入れていたり家で寝かしておくなら」という前提です。
現在住宅ローンは20年固定で保証料などを入れても3%程度でしょうから(ネット銀行などなら1程度もありますし)、低金利でお金を借りられる最大のケースです。
あくまで、お得なのはお金を寝かせておく前提にあるからです。
アメリカの国債でも30年ものなら2%程度の利回りがありますから、金利を1%台で借りている人なら一切繰り上げ返済しないで、国債買ったほうがお得ということになります。
(実際には今は円高に動いていますので、為替差益や30年物の縛りというリスクがあるので、アメリカ国債がいいとは言いませんが利回りだけの話です)
アメリカ国債は、実際にはあり得ないとしても世の中にはリスクがすくなくても、3%以上の利回りがある投資などいくらでもあります。
現実的な話でいえば、例えば、外貨。FXというやつですね。FXはリスクが大きいとイメージしている方も多いかもしれませんが、それはレバレッジをたくさんきかせて、資金以上の大きな取引をしている場合。
レバレッジを1倍や2倍であれば、リスクは極めて少なくなります。
NZドルであれば、今の政策金利は2.25%ですからレバレッジを二倍かけるだけで、4.5%の金利が生まれます。
最初にレバレッジ2倍で取引したら、あとは外貨預金と同じようにひたすらポジションを持っているだけ。それだけで、年間4.5%の利息が生まれ、住宅ローン以上の利益を生みます。
外国為替ですので、当然為替リスクはありますが取引をしないので、円高になっても上がるまで持っていればいいだけ、そうすればひたすら利息は生まれ続けます。
逆に大きく円安になった場合は、ある程度で確定させてもいいかもしれません。利息の何倍もの収益を生むはずですので、利益確定したらある程度下がるまで買い控え、下がったら買ってまたひたすら持っておくだけ。
今のNZドルはここ10年ほどの価格のちょうど真ん中あたりですので、レバレッジ2倍なら問題なくいけるでしょう。大きく円安になっているときであれば大きくさがる幅が広がるのと、今後そのレベルまで上がらない可能性があるので難しいですが今であれば、下げても十分戻すエリアですので、この手は使えます。もっと円高になればますます使えます。
でもFXも税金がと思うでしょうが、税金はたったの10%ですので問題ありません。
5%以上で借りているなら、それ以上の利回りを出すのはリスクも大きくなってくるので少しでも早く返済がいいですが、住宅ローンのように1~3%というような超低金利で借りている場合は、リスクが低くてもそれ以上の利回りを出せることが多いので、繰り上げ返済分を投資に回したほうがよほどお得です。
年数に縛りのある商品でなければ、いつでもお金を出せますしね。
投資は難しい、怖いと思ってる人も多いと思いますが、5%程度の利回りなら安全性の高いものはいくらでもあるんです。
投資なので100%安全とは言いませんが、繰り上げ返済を繰り返すならわずかなリスクを取れるならば、取ったほうが間違いなくお得です。